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■ 謎多きストーンヘンジを誰が築いたのか?2022. 8. 1

謎多きストーンヘンジを誰が築いたのか? 遺伝子解析で浮上した思いもよらない筋書き

7/29(金)

ナショナル ジオグラフィック日本版

ストーンヘンジは世界的に知られ、何百年も調査されてきた。だが、新技術が古代の姿に対する解釈を変えつつある。(PHOTOGRAPH BY REUBEN WU)

英国南部にある先史時代の遺跡、ストーンヘンジ。誰がこの壮大な環状列石を築いたのかという問いに、これまでさまざまな説が出されてきた。

ギャラリー:最新技術で明らかになる巨石建造物ストーンヘンジの謎

古代ローマ人、古代ケルトの祭司(ドルイド)、バイキング、サクソン人、果てはアーサー王のお抱えの魔術師マーリンの名前まで挙がったが、真実を探る研究は困難を極める。なぜならストーンヘンジを造った人々は、文字も伝説も残さず、わずかな遺骨と道具、そして多数の謎めいた建造物だけを残して姿を消してしまったからだ。

およそ4500年前の新石器時代末期、グレート・ブリテン島南部には奇妙なことが起きていた。驚くほど短い期間、わずか100年ほどの間に、人々はグレート・ブリテン島で巨大な環状列石(ストーンサークル)や、石が立ち並ぶ壮麗な道(アベニュー)の多くを築いたのだ。

この古代の建造ブームが残した最も有名な遺跡がストーンヘンジだ。

17世紀以降、数知れぬ古物研究者や考古学者がイングランドの古代のヘンジや塚、環状列石の発掘調査を行ってきた。だが、これらの巨大建造物の多くがほぼ同時期に、一挙に造られたことがわかったのは、ここ数年のことだ。「それまでは、こうした巨大建造物が何世紀にもわたって個別に築き上げられたと考えられていました」と英国の歴史的建造物保護機関「イングリッシュ・ヘリテージ」のスーザン・グリーニーは説明する。

先端技術が次々に開発され、考古学者たちは今、英国南部の石器時代の巨石建造物とそれを造った人々の世界を、わずか数十年前には考えられなかったほど鮮やかによみがえらせつつある。
誰も思いつかなかった筋書き

なかでも衝撃的な発見の一つは、遺伝子解析により、紀元前4000年前後にヨーロッパ大陸からグレート・ブリテン島に渡ってきた大量の人々の存在が明らかになったことだ。それは何千年も前にアナトリア(現在のトルコ)にいた人々の末裔で、農耕と牧畜を営み、グレート・ブリテン島にもともと暮らしていた狩猟採集民とは、遺伝的に明らかに異なっていた。

「これは誰も思いつかなかった筋書きです」と英ヨーク大学でフィールド考古学の講師を務めるジム・レアリーは言う。「民族大移動でグレート・ブリテン島に農業革命がもたらされたという説は単純過ぎると思われていました。皆が探っていたのはもっと複雑な筋書きです。ボートで移民が大量に押し寄せたのではなく、新技術が少しずつ広がったというような。ところが、実際に起きたのは実に単純なドラマだったのです」

一部の移民はイギリス海峡の最狭部であるドーバー海峡を渡ってきたが、現在のフランス西部のブルターニュ地方から大回りの危険な航路をたどって英国西部とアイルランドにたどり着いた人々もいた。彼らの一部は、英国ウェールズのペンブロークシャーの沿岸部に定住した。第1段階のストーンヘンジを築いたのは、40世代ほど後の彼らの子孫かもしれない。

※ナショナル ジオグラフィック日本版8月号「どこから来た? ストーンヘンジ」より抜粋。

文=ロフ・スミス(ジャーナリスト)