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デジタル教科書で日本人はバカになる?脳科学が証明、タブレット&キーボードで「分かった気になる」子どもが増える
言語脳科学者・酒井邦嘉氏に聞く(1)
2025.2.22(土)
酒井 邦嘉
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湯浅 大輝
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教育
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タブレットで学んでも「分かった気になる」だけ?=イメージ(写真:T.Photo)
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文科省の諮問機関である中央教育審議会の作業部会が「デジタル教科書」を正式な教科書として認める方針を示した。デジタル教科書は現在、紙の教科書の「代替教材」という位置付けだが、次期学習指導要領が実施される2030年度をめどに正式な教科書として導入される見込みだ。この文科省の方針を「拙速」として真っ向から反対するのが東京大学大学院教授で言語脳科学者の酒井邦嘉氏だ。酒井氏によるとタブレットなどでの学習は記憶に定着しづらく、学力が落ちる危険性があるという。2回に分けてインタビューを掲載する。
(湯浅大輝:フリージャーナリスト)
>>(後編を読む)デジタル教科書でZ世代の英語力が激落ち!リスニングには便利でも語学で重要な「構造化」に不向き
「ペンはキーボードより強し」
──文科省はデジタル教育を紙の教科書と同等の地位に引き上げる方針を示しています。すでに24年度時点で小学校5年生から中学校3年生まで導入が進み、英語はすべて、算数・数学は6割ほどの学校にデジタル教科書を提供しており、現場では活用が進んでいます。酒井さんは「ペンはキーボードよりも強し」という観点から、デジタル教科書の導入に反対の立場です。なぜでしょうか。
酒井邦嘉・東京大学大学院総合文化研究科教授(以下、敬称略):「紙とペン」の方が「タブレットとキーボード」よりも、記憶の定着率が高い、というエビデンスが確認できるからです。
酒井 邦嘉(さかい・くによし) 言語脳科学者
1964年、東京都生まれ。東京大学医学部助手、ハーバード大学リサーチフェロー、マサチューセッツ工科大学客員研究員、東京大学大学院総合文化研究科助教授・助教授を経て、2012年に同教授。02年に「言語の脳科学」(中公新書)で第56回毎日出版文化賞受賞。近著に「デジタル脳クライシス――AI時代をどう生きるか」 (朝日新書)など
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私はNTTデータ経営研究所と日本能率協会と共同で、「紙の手帳にペンで予定を記入するのと、タブレットにタッチペン(紙とペンと同サイズ)、スマホと指のフリックで記入するのでは、どれがより記憶や脳活動を高めるか」という研究*1を2021年に報告しました。
18〜29歳を3つのグループ(各16人)に分け「2月13日(火)10:30からドイツ語の授業、20日(火)までにレポートの提出」「2月19日(月)10時に図書館で参考書受け取り」「2月23日(金)までに統計学レポートの締め切り」などの予定をそれぞれのメディアに記入してもらいました。
(図:共同通信社)
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その1時間後、「レポートの締め切りが早い課題は何?」といった質問を3グループに投げかけたところ、平均正答率は群間の差がなかったものの、やさしい問題については「紙とペン群」がもっとも正確に解答しました。さらにメモを取る時間を比べると、「紙とペン群」がもっとも速いという結果が明らかになったのです。
なぜ紙とペンで書いた方が速く、正確に予定を思い出すことができたのか。脳活動の仕組みにその答えがあります。この実験では予定を思い出す際に3グループの参加者すべてに磁気共鳴画像装置(MRI)の中で解答してもらったのですが、言語処理に関連した左前頭葉の一部、記憶処理に関係する海馬、視覚を司る後頭葉などの領域でどのグループよりも活動量が多かったのは「紙とペン群」なのです。
──なぜ「紙とペン」の方が記憶の定着に有利なのでしょうか。
「位置情報」が重要
酒井:紙の手帳にペンで文字を記入する際、キーボードや指のフリック入力と比べて遅いため、すべては書き取れませんから自然と「要点を抽出する」必要があります。キーボードや指では、聞いたことをそのまま素早く記入できてしまうのとは対照的です。紙とペンでは、ただ入力に徹するのではなく「要点を絞る」という作業のほうに時間を割くため、記憶の定着率を高めて考える余地を生むことになるのです。
デジタル教科書を使って授業に臨む生徒(写真:共同通信社)
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紙とペンの場合であれば特に意識することなく、「左下のページにあの予定を書いたな」といった位置の情報も同時に記憶されます。タブレットやスマホはスクロールや別リンクに飛ぶと画面が入れ替わるため、「画面と文字情報」の位置関係がバラバラで、空間的な情報を関連づけて記憶することが難しいのです。
記憶を想起する際には、文字情報だけでなく空間的な位置情報も頼りにしています。「紙」という実体としての存在は大きいのです。その意味で「紙とペンの方が、情報を記憶として定着させやすい」と言えるでしょう。
この実験は「予定を思い出せるかどうか」という短時間の結果でしたが、その効果がもし数週間、数カ月にわたって蓄積していったらどうなるでしょうか。「毎回の授業を、タブレットやキーボードだけ」で受け続ければ、理解や要約よりも入力や操作が優先されてしまいます。この研究から分かるように、「学習内容を覚えにくく、考える力が低下する」ことになると予想されます。
──脳科学的に見て、キーボードやフリックによる入力は手書きとは意味合いが異なるということですね。
タイピングだけでは「理解した気になる」だけ
酒井:物事を聞いて書き留めるとき、「情報の入力→構造化→出力」という過程をたどります。この中の「構造化」というプロセスは、脳で言語処理を司る言語野という領域で行われます。これは自分の言葉で組み立て直すことを指し、理解力や記憶力に直結します。
(図:共同通信社)
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ところが、キーボードでは次々と情報を入力することに注力するあまり、構造化を素通りしてしまいます。タイピングでは運動野という領域の指に対する絶え間ない指令が脳に占めるリソースに対して大きくなってしまい、言語野の寄与が下がるのです。手や上肢のわずかな動きだけで済む手書きとは大きく異なります。
手書きであれば運動野の指令を抑えられることに加え、キーワードの抽出や重要度の高い内容を確認するなど、頭の中で整理が進みやすくなります。タイピングのみで学ぶ子どもは、考えることが封印されて「わかった気になるだけ」という危険があります。
>>(後編を読む)デジタル教科書でZ世代の英語力が激落ち!リスニングには便利でも語学で重要な「構造化」に不向き