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骨抜きになった三輪バイクの要二輪免許

骨抜きになった三輪バイクの要二輪免許

 9月1日からの改正道路交通法の施行で、これまで普通免許で運転が可能だった「三輪自動車」の運転に、自動二輪の免許が必要になる。所有していた三輪自動車は「宝の持ち腐れ」になるかと思いきや、そうでもなさそうだ。だとしたらそんな改正は本当に必要なのか。
自動二輪免許がなければ三輪自動車に乗れなくなる?

 2009年6月22日、警察庁は「道路交通法施行規則の一部を改正する内閣府令」を公布し、三輪自動車の規制を見直すと発表した。この改正によって、「車体の構造上その運転に係る走行の特性が二輪の自動車の運転に係る走行の特性に類似するものとして内閣総理大臣が指定する三輪の自動車を二輪の自動車とみなす」ことになった。簡単にいえば、これまで普通自動車の扱いであった三輪自動車は、この9月からは二輪自動車とみなされるようになったのである。

 この改正に驚いたのが、「トライク」と呼ばれる三輪幌型自動車(二輪車の後輪部分を改造して並列の2輪にし、前輪と合わせて3輪となるもの)のオーナーたちである。「二輪自動車とみなされる」とはつまり、今後は自動二輪の免許がなければトライクを運転できないことになるからだ。

 自動二輪の免許取得は、かなり大変なことだ。コストも時間も必要になるのは当然だが、何より体力も必要になるからだ。自動二輪の免許をお持ちの方ならご存知と思うが、免許取得にあたっては倒れた車体を起こす体力が問われる。特に女性や高齢者にはハードルが高くなることが十分に予想できるのだ。

 トライクは三輪という構造上、安定性に優れており、自動車より楽に乗り降りできる。そのためユーザーには身体に障害を抱える人たちも少なくない。そうした人たちにとって自動二輪の免許取得は困難でしかない。つまりこの度の道交法の改正は、多くの人たちから移動の足を奪いかねない事態になりかねないのだ。これからのトライク普及についても足を引っ張ることになりかねない--。トライクの愛好家はそう危惧した。

 しかし結論から先にいえば、今回の道交法の改正は、トライクとそのユーザーにはほぼ何の影響もおよぼすものではないのだ。

わずか2000台の輸入車のための法改正

   道交法改正の条文にある「内閣総理大臣が指定する三輪の自動車」とは、次の4つの要件をすべて満たすものである。

(1)3つの車輪を備えていること。
(2)車輪が車両中心に対して左右対称の位置に配置されていること。
(3)同一線上の車軸における車両の接地部中心点を通る直線の距離が460ミリメートル未満であること。
(4)車輪及び車体の一部又は全部を傾斜して旋回する構造を有すること。

 まずは(3)の要件である。3輪のうち並列する2輪の幅が460ミリメートル未満というのは、かなり狭い。現在のトライクの大部分は後輪部分が2輪になっているが、トライクの特徴である安定性を重視するために両車輪の間隔はかなり広くなっている。460ミリメートル未満の要件を満たすトライクはほとんどない。

 そして(4)の要件についても、現在のトライクであてはまるものは少ない。車輪や車体を傾斜して旋回する構造ではなく、ほとんどがハンドルによって旋回するようになっているからだ。つまり現状あるトライクの大部分は、三輪自動車の定義から外れるために法改正の影響を受けない。現状のまま、すなわち普通免許で乗ることができる、というわけである。

 では、一体なんのための法改正なのか。筆者が調べた範囲では、今回の道交法の改正で規制の対象となる「内閣総理大臣が指定する三輪の自動車」の要件を満たすトライクは、今のところ一車種しかない。イタリアはピアジオ社製の『MP3 250FL』だ。このトライクは2007年から日本には輸入されており、その数は全部で2000台である。今回の道交法の改正は、このわずか2000台のためだったと考えるしかないのだ。

「安全の確保」という点でも今回の法改正は疑問

 トライクの見た目はオートバイそのものであるが、運転にあたってはヘルメット着用は義務づけられてはいない。これは今回の法改正以降も同様である。というのも、トライクの運転に必要なのは普通免許であり、普通免許は普通自動車の運転を前提にしているからだ。自動車は人の身体を保護する構造になっているのでヘルメットは必要としない、との考えに基づいているわけだ。

 とはいえトライクは、運転者の身体を保護する構造になっていない。自動車には義務づけられているシートベルトもない。高速道路での最高速度は80km/hに制限されているとはいえ、安全面での規制は緩い。これではいかに安定性に優れるトライクとて、万一の際には二輪以上に重篤な事態になりかねない。現に、2005年には走行中のトライクが横転し、後部座席に乗っていた主婦が死亡、運転していた主婦も意識不明の重体になる事故が起きている。2人ともヘルメットは着用していなかった。

 三輪自動車の事故を防ぎ、もし事故が起きても被害を最小限におさえることが目的ならば、今回の改正でトライク全体が対象になってもおかしくはない。それが中途半端に終わっているのは、免許の問題だ。

 4輪の自動車と2輪のオートバイの中間に位置する三輪自動車は、従来の免許制度の範疇では把握できないものだった。今回の改正でも普通免許か自動二輪免許か二者択一を迫られ、普通免許だけで運転している人の多い現状から普通免許に落ち着いた感じである。その結果、大半の三輪自動車は対象からはずれ、ヘルメット着用も義務化されずに安全面で問題を残すことになった。この点でも、いったい何のための改正だったのか疑問は残る。

 ただし、安全面は規制してもらって実現するものではない。安全は自分で確保するのが大前提である。実際、トライクのオーナーの多くは自発的にヘルメットを着用している。義務づけられていないからといってヘルメットを拒否するのではなく、自らの安全のためにヘルメットの着用を実践する姿勢こそが重要だ。乗り方にしても免許があるから安全なわけではない。個人の運転姿勢に寄るところが大きい。そうした自覚が乗る側にないかぎり、いくら道交法を厳しくしたところで事故はなくならない。道交法改正の中途半端さを、自ら安全を守る意識を高めることのきっかけにしたいものだ。