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日本車メーカーに追い風が吹いている…欧州ではじまった「EVバブルの崩壊」を示す"バッテリー工場の異変"
9/23(月) 9:17配信

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プレジデントオンライン
2024年3月25日、2026年から電気自動車用のバッテリーセルを生産するノースボルト工場の公式着工式に出席したショルツ首相とハベック経済相。 - 写真提供=DPA/共同通信イメージズ

■事業縮小に乗り出すEVシフトの担い手・ノースボルト社

 スウェーデンのバッテリーメーカー、ノースボルト社が不振に喘いでいる。同社は9月9日、北東部シェレフテオにある工場で大規模なリストラに着手すると発表した。具体的には、正極活物質(CAM)の生産を停止するとともに、経営資源をセルの生産に注力する。この事業再編に伴い、約7000人いる従業員の削減にも着手するという。

【グラフ】リチウムイオンバッテリーの輸出数量が足踏みをしている。

 同社は、ドイツのフォルクスワーゲン(VW)社やスウェーデンの投資ファンドであるヴァーガスホールディング、コンサル会社であるロカルマなどが出資した新興企業だ。欧州連合(EU)が掲げる電気自動車(EV)シフトの担い手として期待された企業でもあり、2021年末からスウェーデンで車載用バッテリーの生産を始めていた。

 その後、EVの急速な普及を受けて事業は順調に拡大、今年1月にはシェレフテオにある工場の拡張のために50億ドルの融資を受けたばかりだった。またスウェーデンのみならず、ドイツやポーランド、そしてカナダでの事業拡大を計画していた。それからわずか半年で、ノースボルト社は事業の抜本的な見直しを余儀なくされたことになる。

 ノースボルト社がリストラを断行する理由は、EVの不振にある。EUの目論見に反して、EVの域内市場での普及には急ブレーキがかかっている。いわゆるアーリーアダプターへの普及が一巡し、カーユーザーへの購入補助金がカットされたためだ。インフレ対策として欧州中銀(ECB)が利上げを進めたことも重荷となっている。

■バッテリー輸出も足踏みが続く

 統計的にも、スウェーデンからのバッテリー輸出が足踏みしている様子がうかがえる。ユーロスタット(EU統計局)のデータより、スウェーデンによるリチウムイオンバッテリー(ただし非車載用も含む)の輸出数量の動きを確認すると、最新4~6月期は前期比43.6%増の1685トンと好調だったが、ヨーロッパ向けは停滞が顕著だ(図表1)。

 EU域内向けに限定すると、4~6月期の輸出数量は740トンと1~3月期の654トンから13.1%増と堅調だったが、過去最高だった2022年10~12月期の828トンには及ばない。英国とノルウェーを加えても、2022年のピーク時の4分の3程度の輸出数量にとどまっている。一方で、この間の輸出単価は、内外の競争激化から低下している。

 非車載用も含まれているとはいえ、スウェーデンのリチウムイオンバッテリーの輸出数量の動きから判断して、ノースボルト社の事業計画がかなり楽観的だった印象は否めない。完成車メーカーがEVの生産計画を軒並み下方修正するのは2024年に入ってからであるため、23年まではEV業界全体がユーフォリアに包まれ、見通しが甘くなったようだ。

 資金調達が難しくなったことを受けて、ノースボルト社に対してスウェーデン政府が公的資本を注入し、救済を行うとの観測が広がった。しかしウルフ・クリステション首相は9月16日の会見でこれを全面的に否定、あくまで株主が責任を負うべきであると強調した。同社の不調は、EUにおけるEVバブルが崩壊したことをまさに体現している。

■生産補助金でコスト削減を図るEU

 もともとEUは、域内市場における競争条件を平等にするため、加盟各国の政府が特定の企業や産業に対して補助金を給付することを固く禁じてきた。しかしEVの基幹パーツである車載用バッテリーに関しては、EVシフトを促す観点から加盟各国による補助金の給付を推奨、その生産のための巨大工場(ギガファクトリー)の設立を後押しした経緯がある。

 他方でEUは、2024年に入って加盟各国に対して財政再建を要求、この流れを受けて各国政府はカーユーザーへの購入補助金をカットした。つまりEUは、それまでは需給の両面からEVシフトを促してきたわけだが、24年に入って供給サイドだけに支援の対象を絞り、供給コストを引き下げることに注力しようとしたのである。
 EUの今のEVシフトの支援の在り方は、いわゆる「セイ法則」的な考えに基づいているともいえる。つまり供給を刺激し続ければ、需要が掘り起こせるという見解をEUは持っているように見受けられる。一方で、EVメーカーは供給の増加で需要を掘り起こせるとは考えていないからこそ、先行きの生産計画を下方に修正していることになる。

 見方を変えると、EUのEVメーカーの生産能力は、域内の潜在的な需要に比べるとすでに過剰となっているのではないだろうか。つまりEUの旗振りの下、一種のユーフォリアに包まれたEU域内のEVメーカーは、生産能力を上げるために積極的に設備投資を行ってきたわけだが、すでにその設備は過剰となっている可能性は高いと考えられる。

■域内のEV生産能力は過剰の恐れ

 EUのEVメーカーが過剰設備を抱えているなら、購入補助金などを通じて需要を刺激しつつ、その解消を図ることが現実的な選択となる。一方で、中国から低価格のEVが流入し、それが域内のEV需要を奪っているという事実もある。域内製EVの購入にだけ補助金を給付することは明らかな国産品優遇であり、本来なら自由貿易の原則に反する。

 EUは本来、自由貿易の原則を重視する。そうした姿勢とは矛盾するが、EVの過剰設備を解消するためには、EUは建前にばかりこだわっていられないというところだろう。あるいは対極的に、中国製の低価格EVを全面的に受け入れ、域内での市場競争を通じて、域内製EVの低価格化を実現し、需要を掘り起こすことも考えられる。

 現状のEUのスタンスは、この二つの方向性の間でバランスを取ろうとしている印象を受ける。いずれにせよ、EUが掲げる野心的なEVシフトには、目下、非常に強い逆風が吹いている。自動車の電動化がグローバルなメガトレンドだとしても、EUはその旗手になる前に、自らが積み上げた過剰設備の解消に努める必要がありそうだ。

 かつて日本の完成車メーカーは、EVシフトに慎重な姿勢を示したことから、脱炭素化に及び腰であると批判されていた。日本の完成車メーカーは輸出産業であることから、世界の需要動向を見据えている。供給のルールを変えることでグローバルな主導権を握ろうとしたEUだが、追い風を得たのは今のところ日系メーカーだといえそうだ。

(出典等)

2024-09-30 (月) 09:57:34
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