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**電車トラブルが起きると、ネット民がいつも「駅員の味方」をするワケ [#j2c6b653]
Merkmal5/12(日)21:31

電車トラブルが起きると、ネット民がいつも「駅員の味方」をするワケ
駅(画像:写真AC)

駅員の地位と実際
 鉄道ユーザーの多くは、無意識のうちに駅員を「格上の存在」として見ているのかもしれない。

 この点について、ジャーナリストの佐々木俊尚氏は自身のnoteで公開した記事「「弱者は誰なのか?」論争で考える「鉄道駅員は権力者なのか?」問題」で興味深い指摘をしている。

 最近のマクドナルドのシステム障害の際、マスメディアは客の目線で「不便だった」と報じたが、SNSでは店員の対応を評価する声が多く見られた。また、JR無人駅での車いす利用者とのトラブルでも、SNSでは「駅員がかわいそう」という反応が少なくなかった。

 佐々木氏はこれを

・お店側の目線
・運用側の目線

の広がりだと捉えている。鉄道会社は巨大企業だが、現場で利用者と直接向き合うのは権力を持たない駅員だ。事故などのトラブル時に矢面に立たされるのも、経営者ではなく現場の駅員である。ここで参考になるのが

「権力勾配」

という概念だ。これは、社会のなかで権力を持つ側と持たない側の力関係を表す言葉だ。鉄道会社と利用者の関係を見ると、一見すると企業側が権力を握っているように見える。しかし実際に利用者と接するのは、権力を持たない末端の駅員なのだ。

 つまり、「権力勾配」の観点からすると、駅員は必ずしも「格上の存在」とはいえない。むしろ組織の末端で、利用者と経営者の板挟みになりながら奮闘している「仲介者」ともいえるだろう。にもかかわらず、制服を着て、乗客の行動をチェックし、ときに指示を下す姿は、どこか威圧的に映る。


駅(画像:写真AC)
サービス業における従業員への要求
 なぜ駅員は乗客よりも「格上の存在」だと誤解されがちなのだろうか。その理由は大きく分けて三つある。

 第一に、駅員の業務上の立場だ。彼らは、切符の確認や安全の確保、トラブルの防止など、乗客の行動を常にチェックする役割を担っている。つまり、乗客に対して「指示」を出す権限を持っている。こうした「監視」と「指導」の役割が、駅員を乗客より「格上の存在」に見せてしまう。

 第二に、駅員が身につける制服の影響である。鉄道会社の制服を着た駅員は、乗客の目には「大企業の代表者」として映る。これが、駅員の権威をより高める効果を生んでいるのだ。「この人は、会社の方針に基づいて私たちを管理する立場にある」といった印象を持つ人も少なくないだろう。

 第三に、鉄道サービスを「お客さまと従業員」という単純な二項対立でしか捉えられない視点の存在である。この視点に立つと、「お客さまである自分は常に正しく、従業員は自分に奉仕すべき存在」という誤った認識を持ちがちだ。つまり、駅員を「格上であり、サービスを提供する立場」と見なした上で、ケアされるべき下位である自分の要求に応えるのは当然の義務だと思い込んでしまうのである。

 こうした現場の従業員を企業の代表者であり、ユーザーに満足いくサービスを常に提供し続けるプロフェッショナルでなくてはならないという思い込みは、あらゆる業種で見られる。特にサービス業においては、現場で直接顧客と向き合う末端の従業員に、過剰な要求や判断を求める傾向が顕著だ。

 一方で、SNSの普及によって、従業員の立場に立った発言が増えてきたことも事実だ。顧客からの理不尽な要求や、サービスに対する苦情に、従業員の立場から反論したり、同情を示したりする投稿が目立つようになってきた。

 従来メディアではあまり取り上げられることのなかった、現場の従業員の生の声を可視化したという点で意義深い。従来メディアではあまり取り上げられることのなかった、従業員の生の声に光が当てられるようになったのだ。


佐々木俊尚『「当事者」の時代』(画像:光文社)
従業員に憑依する大衆
 しかし、ここで注意しなければならないのは、こうした

「従業員憑依(ひょうい)」

ともいうべき風潮が、問題の本質的な解決を遠ざけてしまう可能性があるということだ。「従業員憑依」の元ネタは、前述の佐々木氏が著書『「当事者」の時代』(光文社)で記した

「マイノリティー憑依」

という概念だ。「マイノリティー憑依」とは、社会運動のなかで時折見られる、いわば

「幻想の弱者」

を勝手に代弁し、その立場から体制や反対者を糾弾する行為を指す。いま、SNSなどで盛んに見られる、利用者の批判に対して「企業や従業員の立場も考えろ」といった形で批判そのものを封殺したがる人たちは、新手の憑依した人たちといえるだろう。

 従業員の立場に感情移入することで、多くの人は一時的なカタルシスを得られるかもしれない。「自分は正義の味方だ」という満足感を覚えるのだ。しかし、それは表面的な同情に過ぎず、根本的な問題の解決にはつながらない。

 例えば、「理不尽な客」を一方的に非難したところで、サービス業の現場におけるストレスの軽減にはならないだろう。「お客さまは神様」という考え方や、従業員に過剰な要求をするような風潮は、簡単には変わらないからだ。

 大切なのは、個別の事例に感情的に反応するのではなく、問題の構造的な原因を見極め、解決に向けた建設的な議論を重ねていくことだ。企業は、従業員の声に耳を傾け、職場環境の改善に努める必要がある。顧客もまた、サービスを受ける側の立場だけでなく、従業員の置かれた状況への理解を深めなければならない。

 近年、SNSでは駅員に過剰に同調する「従業員憑依」ともいうべき風潮が見られる。その代表的な事例が、2021年に起きた静岡県の無人駅・来宮駅を利用しようとした車いす利用者の女性と、JR東日本の駅員とのトラブルである。

 これは、女性が友人らと旅行に出掛けた際に、JR来宮駅にエレベーターがなく、階段しかなかったことが発端となって起こったトラブルだ。この出来事はニュースでも大きく取り上げられたので記憶している人も多いだろう。この問題を巡っては

「障害者の移動権が侵害された」
「バリアフリー設備の不備が問題だ」

といった指摘がなされた。しかし、SNS上では本質とは外れた意見が殺到した。駅員の立場に立って女性を非難する声が大多数を占め、女性には誹謗(ひぼう)中傷が殺到したのである。

 当時の報道を振り返ると、女性へのインタビューからは、旅行前に来宮駅の構造を十分に確認していなかったことや、駅員とのコミュニケーション不足など、女性側にも改善の余地があったことがうかがえる。


駅(画像:写真AC)
二項対立からの脱却
 しかし、だからといって女性への一方的な批判が正当化されるわけではない。むしろ、この事例を通して浮き彫りになったのは、日本社会における

・バリアフリーの不備
・障害者の移動権に対する理解の乏しさ

ではないだろうか。SNSの普及によって、一般の人々が気軽に意見を発信できるようになったのは喜ばしいことだ。しかし、そこで交わされる議論が、本質的な問題から目をそらし、個人への誹謗中傷に陥ってはならない。

 確かに、駅員は懸命に職務を遂行し、誠実に対応したのだろう。しかし、だからといって、障害者の移動権の問題を矮小(わいしょう)化してしまうのは、本末転倒だといわざるを得ない。設備の不備に責任がある駅員を非難することは適切ではないが、だからといって、

「根本的な課題」

から目を背けるべきではないのだ。この出来事は、SNS上の議論の偏りを浮き彫りにしたといえる。

・障害者の権利
・駅員の立場

が対立的に語られ、建設的な議論が置き去りにされてしまった。私たちは、こうした二項対立に陥ることなく、多角的な視点から問題を捉える必要がある。

 そのためには、障害者の思いに寄り添うことはもちろん、現場で働く駅員の苦労にも目を向けなければならない。「お客さまは神様」という発想に縛られず、従業員の立場に立って考えることが求められる。その上で、バリアフリー設備の充実など、根本的な解決策を探っていくべきなのだ。


駅員のイメージ(画像:写真AC)
鉄道会社の支援必要性
 こうした「従業員憑依」の背景には、先に述べた3つの要素が複雑に絡み合っている。駅員の業務上の立場、制服が与える印象、そして二項対立的な思考。これらが重なることで、駅員を「格上の存在」だと勘違いし、過剰に同調する風潮が生まれている。

 しかし、こうした「従業員憑依」”は、本質的な問題の解決を妨げるだけでなく、最前線で働く駅員を不当におとしめることになる。

 鉄道ユーザーひとりひとりが、駅員を「仲介者」として意識することは重要だ。彼らは乗客と経営陣の間に挟まれながらも、安全で快適な鉄道サービスを提供するために懸命に働いている。ときには理不尽な要求や暴力に直面することもある。そんな第一線で働く人たちの苦労を想像し、理解する必要がある。

 同時に、鉄道会社は「仲介者」の重要性を再認識し、彼らが働きやすい環境を整える必要がある。現場の声に真摯に耳を傾け、適切な支援と権限委譲を行う必要がある。鉄道サービスの質は、最前線の担い手が能力を発揮してこそ向上する。

 駅員は決して「格上の存在」ではない。「従業員憑依」のような安易な態度ではなく、駅員をパートナーとして尊重し、協力していくことが何より重要なのである。
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#hr
https://topics.smt.docomo.ne.jp/article/merkmalbiz/business/merkmalbiz-65761

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