中級者向け講座 1968年に出版されたT・レビット博士の著書「マーケティング発想法」の冒頭に 「ドリルを買う人が欲しいのは「穴」である」という格言があるんじゃ。 実はこの言葉自体はレビット博士の言葉ではないんじゃよ。文中に、明記してあるが、レオ・マックギブナという人の言葉をレビット博士が著書の中で紹介したものなんじゃ。 ワシがこの格言が好きな理由は、ともすればプロダクトアウト(売り手都合)になりがちなマーケターの思考回路をチェックし、マーケットイン(買い手都合)に転換するには非常に効果的な問いかけだからなんじゃ。 企業が展示会に出展するのは、ブースを作りたかったからではなく、売上げに結びつく見込み客のリストを集めたいからなんじゃ。 こうした事は言われればわかるものじゃが、実務の中ではついつい「部分最適」に陥ってしまうものなんじゃ。 これを思い出させてくれるのも、この「ドリルを・・・」の格言なんじゃ。 また、扱っている商材が問題解決型、つまり「ソリューション型の商材」であった場合、この格言はマーケティングの基本設計を引く時の本質的な答えになるんじゃよ。なぜならソリューション型の商材の販売プロセスに不可欠な「顧客の問題の正しい理解と整理」のプロセスをこれ程よく表現している言葉は無いからなんじゃよ。 例で説明しようかの。 よくある「どんなドリルをお探しですか?」という質問も曖昧過ぎて適当とは言えないんじゃよ。なぜならこうした質問は、買いにきた人が自分の解決すべき問題とその解決方法を正確に理解しているという前提に立っているからなんじゃ。 実はソリューション型の商材の世界ではそんなことはめったにないんじゃ。目の前で起こっていることは現象であって、問題の本質は別に在ることが普通じゃから、それをプロフェッショナルが聞き出し、整理して、一緒に考えてあげない限り、問題の正しい解決手法は見つからないことが普通なんじゃよ。 小売の場合、販売員はすぐに販売奨励金の付いている、つまり値引き幅の大きい製品を勧めたがるものなんじゃ。お店としてはこの製品を多く販売することでより多くの販売奨励金をメーカーから貰いたいからの。でも、これではプロダクトアウトだけの考え方で、マーケターが最も気をつけるべき「マーケットイン」の思考の対極になってしまうんじゃ。 では、仮にホームセンターの販売員がこのお客さまのために、売り場に並ぶ数多いドリルの中から最適の1個を選ぶにはどんな質問をすべきなのか? 「穴をあけるものの材質は何ですか? (木材か、コンクリートか、鉄板か)」 といったものであり、さらに突っ込んで 「それは何をするための穴なのですか?」 という目的までを聞かなければ最適なドリルを見つけ出す手伝いは出来ないんじゃよ。 これらの要点、つまり「お客さまが解決すべき課題・問題」を「正しく理解して」、はじめてこのお客さまにとって必要なドリルのスペックが見えて来るんじゃ。そのスペックと在庫商品をマッチングさせることで最適なドリルの候補をいくつか選び出して勧めることが出来るし、もしお客さまがドリルを使うのは3週間先、という時間軸の情報も聞き出すことが出来れば、その時に売り場に最適なドリルが無い場合でも、最適のドリルを取り寄せてお客さまに渡すことが出来るんじゃ。 お客さまが解決すべき課題・問題を正しく理解しなければ、最適の解決策を提案出来るはずなんてないのじゃよ。 実は、これはBtoBの特にソリューション型の商材の世界では、小さな企業が大企業と互角以上に戦えることを意味しておるんじゃ。 それに比べると、BtoBの世界では、「お客さまの課題・問題を理解し、解決策を提案する」というプロセスが在るので、プロフェッショナルのスキルがどうしても必要になるんじゃ。つまり、規模が小さくても十分に勝負になる世界なんじゃよ。 そんな時にこそ、この「ドリルを買う人が欲しいのは穴である」という格言を思い出して欲しいんじゃよ。 |