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台湾新幹線の製造価格「3倍も高い」カラクリ

台湾新幹線の製造価格「3倍も高い」カラクリ
独自取材で判明、日本と違う台湾のコスト構造
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大坂 直樹 : 東洋経済 記者
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2021/03/22 5:20
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台湾高速鉄道の700T。日本の700系新幹線をベースに製造された(記者撮影)

台湾の高速鉄道に導入が予定されていた新型車両8編成の入札が1月20日に中止となった。運営会社の台湾高速鉄路(高鉄)は4編成の追加オプションと合わせて計12編成の調達を計画していたが、中止の理由として「メーカーの見積もり価格と市場価格の差が大きすぎる」と説明している。

高鉄はメーカー名や入札価格を公表していない。しかし、現行車両の「700T」は川崎重工業、日立製作所、日本車両製造が製造し、また700Tには東芝製の電気機器が多数搭載されていることから、現地では高鉄が交渉していたのは日立、東芝の連合体だと報道されている。なお、日立と東芝が高鉄と交渉していたかどうかは、両社とも公式には「個別案件への回答は控える」としている。

現地報道によればメーカー側の提示価格は1編成当たり50億台湾ドル(約192億円)。これに対して、高鉄が2012〜2015年に追加導入した700Tの1編成当たりの価格は約16.5億台湾ドル(約63億円)だった。つまり、高鉄が導入しようとしている新型車両の価格は700Tよりも3倍高いことになる。

50億台湾ドルという価格は、日本の新幹線車両の価格と比べても著しく高い。JR東海の最新型新幹線「N700S」40編成のN700Sの価格は補修部品等も含め約2400億円。1編成当たりの価格は60億円と推測できる。
新型車両導入の経緯

新型車両の価格はなぜそれほどまでに高いのか。台湾高速鉄道プロジェクトの関係者たちに取材を続けたところ、その理由がおぼろげながら見えてきた。
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高鉄の主力車両700Tは東海道新幹線「700系」をベースに開発された。2007年の開業時に30編成、その後2012年から2015年にかけて4編成が導入されている。さらに高鉄は輸送量の増加や将来の延伸計画に対応するため、2017年に新たな車両の導入の検討を始めた。

700Tを増備するという選択肢もあったが、700系は2006年に生産終了となっており、700Tを構成する主要部品の調達が不可能に。そのため、新型車両を導入することになったという経緯がある。とはいえ、新型車両導入の経験がない高鉄には車両の仕様を策定するノウハウが乏しく、JR東海が仕様策定のサポートを行っている。

台湾の高速鉄道はもともと独仏方式で計画がスタートし、その後日本連合が逆転受注したという複雑な事情がある。そのため、独仏方式の基準があちこちで使われており、新幹線の車両をそのまま持ち込むことができない。

700Tの開発に際しては、700系からさまざまな仕様変更がなされた。だが、新型車両の開発に際しては、製造コストを減らすために、東海道新幹線の当時の主力車両だったN700系の仕様をそのまま活用する部分が増えた。
日本の700系と台湾の700Tはさまざまな部分が異なり、ハンドルの形状など運転台の機器も違う。上は700系と同型の「ドクターイエロー」、下が700Tシミュレーターの運転台(記者撮影)

たとえば、700系やN700系に設置されている乗務員室の扉は、衝突耐性を悪化させるとして700Tには設置されなかった。しかし、新幹線システムは衝突リスクがないことを高鉄側に理解され、新型車両では設置が認められることになった。逆に新幹線に設置されていない駐車ブレーキは独仏基準に合わせて700Tに搭載されたが、700Tにおける使用実績がないことから新型車両では搭載不要となった。

しかし、そのほかの大半の部分は台湾側の仕様に合わせることなった。たとえば客室内の火災対策一つとっても、新型車両に用いられる素材はすべて燃焼試験を行い、当局にデータを提出することが求められる。煙検知器も設置することになったが、配線一つとっても、1カ所を変えると、ほかの部分も変更する必要が出てくる。運転台の機器配置も日本のものとはやや違う。

こうした仕様変更を一つひとつ積み重ねた結果、「新しい車両を開発するのと同じくらいの費用になった」(関係者)。
仕様策定費上乗せで高額に

メーカーは新型車両の仕様変更費用を製造価格に上乗せする。一方で、日本では新型新幹線の仕様策定はJR自身が行っているので、メーカーの負担ではない。新幹線となるとJRが投じる開発費用は巨額に及ぶ。JR東日本は約100億円を投じて時速360kmでの営業運転を目指す試験車両「ALFA-X(アルファエックス)」を開発し、試験走行で得たノウハウが次世代新幹線の仕様決定に活かされる。JR東海も愛知県小牧市に約73ヘクタールの敷地を持つ研究施設を建設し、高速運転や安全輸送にかかわる研究を続けている。これらが新型新幹線の仕様策定につながるわけだ。

このように日本の新幹線ではメーカーの製造費用に反映されない仕様策定費用が、台湾では丸ごと製造費用に上乗せされる。しかも、今回高鉄が導入するのはわずか8編成。仕様策定費用を編成で按分するため、1編成当たりの費用負担も大きくなる。

車両に使われる部品は、日本ではJRが手配してメーカーに支給して組み立ててもらう。JRは部品メーカーとの長年の取引慣行やスケールメリットを生かして割安で調達できるが、メーカーが台湾の新型車両向けに調達する部品は、調達数が少ないため割高になってしまうケースもある。

なお、高鉄の仕様では、新型車両の試運転費用や運転士の訓練運転に関する費用も製造費用に含んでいる。当然ながら日本の新幹線では試運転費用や訓練運転費用は製造費用には含まれない。さらに台湾へは車両を船便で輸送するため国内輸送と比べると輸送コストがかさむ。これも製造費用に含まれる。

また、日本ではJRとメーカーの長年の取引慣行があり納入遅延はまず起きないが、高鉄では納入遅延に対するペナルティが厳しいため、メーカーは納入遅延を回避する予備費用を多めに見込んでいる。加えて、車両トラブルに対する補償条件もJRより厳しい。

こうした諸条件を合計した結果、高鉄の新型車両の製造費は日本の新幹線の製造費用よりも割高になった。ただ、関係者によれば、「3倍高いということはなく、新幹線の製造費の2倍以内には収まっている」。東洋経済オンライン2021年1月23日付記事(急展開、台湾新幹線「国際入札」打ち切りの裏側)によれば、1編成当たりの価格は29億台湾ドル(111億円)だ。
700Tの本当の製造コストは不明

では、700Tの製造費用と比べた場合はどうだろうか。実は、700Tのコスト構造自体は明確になっていない。前述のとおり追加導入した700Tの1編成当たりの価格は約16.5億台湾ドル(約63億円)だが、そこに仕様策定などの費用は含まれていない。当初製造した30編成に含まれているのだ。

では、当初の30編成の製造費用はどうだったかというと、「高速鉄道計画全体にまたがるプロジェクト管理費用を車両などのセグメントごとに按分する作業を行っていない」と関係者は説明する。さらに「製造費用は予算をオーバーし、費用の一部はメーカーの “持ち出し”だ」という指摘もある。つまり、初期費用を含めた700Tの製造費用は誰にもわからない。

割高に見える新型車両の製造費用について、メーカー側は台湾以外の国に高速鉄道車両を納入した際の価格を高鉄に説明しており、国際的に見ても割高ではないことは、少なくとも高鉄の現場サイドは納得した。しかし、高鉄の董事会(日本の取締役会に相当)は、「鉄道の専門家集団ではないため鉄道のコスト構造をよく理解しないまま、車両の価格が割高だと判断した」(関係者)。その結果、入札は中止となった。
700系(上)と700Tの先頭部。700系にはある乗務員室の扉が700Tにはなく、流線形のカーブも違う(写真上:tackune/PIXTA 写真下:jemmy999/PIXTA)

新型車両の製造費用が29億台湾ドル(111億円)だとすると、現地報道が伝える50億台湾ドル(約192億円)という金額は一体どこから出てきたのだろうか。真相はどうやら高鉄の董事会メンバーが、「約3倍も高い」と発言。それを受けて、台湾のマスコミがN700Sの価格を3倍して50億台湾ドルという金額を導き出したようだ。

なお、「3倍」という数字が何と比較したものかは明らかにされていない。700Tの価格を当時の為替レートで換算すると45億円なので、「111億円÷45億円=2.5」を切り上げて、「3倍」という計算は成り立つが、はたしてどうだろうか。

高鉄が新型車両を導入する理由は、今後予想される高速鉄道の需要増に対応すべく車両を増やすというものだった。交渉打ち切りによって、当面は現行の車両数でやりくりすることになるが、おそらく早晩、高鉄は車両の追加導入を迫られ、入札が再開されることになる。そのときに仕様や価格で歩み寄るのは高鉄か、それともメーカー側なのだろうか。

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